エフィカシージャパン所属コーチの衣川信之です。
「コーチングの教科書」の基本連載です。未来思考で世界中の人の創造性と天才性を育み、利他的な人を増やす活動であるコーチングの学び方を、基礎からわかりやすく説明していきます。
2−14 ゴールの定義
今日は、ゴールそのものについて、そもそもゴールとは何だろうというテーマです。自分にとって本当の正しいゴールが設定でき、コンフォートゾーンが正しく設定できた時に、新しい認識が生まれ、新しい自我が生まれ、セルフトークやセルフイメージが変わり、新しいコンフォートゾーンでゴールの自分にふさわしいパフォーマンスが出るようになります。そしてゴール設定は高度な体系的な技術ですから、また、ゴールを設定する様々な各論の領域や変化する状況によっても個別具体的な秘訣はありますが、だからこそゴール設定について知識と技術を持っているコーチの仕事が成り立ちます。
そのような理由で一言で「ゴール設定とは〜である」と単純に言葉で説明しきれないところもあります。また、エフィカシーは高いセルフイメージのことであり、現状の外のゴールを達成できる自分の能力の自己評価のことですが、そもそもゴールとはどのようなものでしょうか。ゴールの定義がわからないと、ゴールの概念を取り込んだ概念であるエフィカシーの概念、中身も決まってこないはずです。
ですが、人間の脳にはスコトーマという心理的な盲点が働いてしまう機能があり、重要だと思っているもの、知っているもの以外は隠してしまうのですから、ゴールの概念やその他の抽象度が高い概念は、物理次元での作業指示、たとえば、Xという物体をA地点からB地点へ移動するというような作業を記述しやすい、理解しやすい、そういう意味で次元の低い概念に比べると、その言葉が意味すること自体の意味が発展的であり、自分の認識が広がり抽象度が高くなってきて初めて見えるようになり、理解できるようになる面があります。
ゴールという言葉も、Xという物体をA地点からB地点へ移動するというような作業の記述であれば、それは何をどうやってどのように動かすかという経路の設計と動作の終点の記述にすぎなくなります。作業の経路と終点は既に知られたことであるなら、そのように決めて実行すればいいだけです。ところが人生を生きて、様々な体験をしながら、認識を得て、思考ができ、心の働きを使って物理世界や物理世界を取り巻く情報の世界や人間関係にも影響を与えることができる人間にとってのゴールや夢とは、単なる作業指示の経路の終点のことではないでしょう。
マインドの働きを高め、見えていなかったものが見えるようになり、新しい未来の可能性、つながり、縁起が見えるようになり、多くの人の自由や幸せにつながるような創造的で利他的な思考や行動ができる新しい自分、なりたい自分になっていくプロセスや可能性を含むものだと考えることができます。
「思考停止という病」という書籍の中で苫米地博士は、進化の過程と意思との関連で、ゴールとは〜であると明確に述べられている箇所があります。進化というとダーウィンの進化論や、それに反対する欧米では宗教、旧約聖書を土台とするキリスト教的な立場から進化論を否定する立場の間で議論があり、その影響で進化論がやや唯物主義的な方向、進化論を否定する立場が宗教の世界観という意味で精神次元を土台にしている面があります。「利己的な遺伝子」「神は妄想である」などの世界的ベストセラーで知られるリチャード・ドーキンスの議論の組み立て方も、キリスト教が描いてきたような一神教的な神の概念は人間が作り出したデリュージョンであり、唯物的な次元で生きる生物、動物の一種である人間や生物の進化は、利己的な遺伝子の働きであるという見方をしています。
一方で、いやそうではない、やはり人間にとっては心がある、精神的な次元がある、利他性は大切だという、素朴でありながら人間の心に訴える、宗教、哲学、倫理、それぞれ各人の精神性などもあるでしょう。最近は、教養ブーム、哲学ブームでもあるようです。
それでは、科学に依拠しながら、心の働きという、哲学としての仏教思想にも似た深みや実践的な利他性を持つコーチングの体系ではどのように、進化の過程と情報次元の意思がゴール概念との関連で論じられるのでしょうか。「思考停止という病」という書籍の中で苫米地博士は、このように述べられます。
進化の過程には意思があり、「陸に上がりたい」という強烈な力が働いたはずです。そうでなければ、現状の海の中のほうが楽で安心だからです。
この情報的な意思のことを、コーチングの世界では「ゴール」というのです。
それは思考においても同じです。現状の外側に強烈な情報(何らかのゴール)を置くことによって、そこに向かって現状から抜け出すパワーが生まれます。
ゴールを持てば、自分にとっての重要なものが変わります。するとスコトーマが少しずつズレ、これまで見えなかったことが見えてきます。さらにそこから、抽象度が上がっていく「ヒルクライミング」が起こってきます。
もちろん、ヒルクライミングのためには、知識の量と抽象思考が必要になってきますが。
つまり、本気で達成したいと思えるゴールがあるからこそ、思考を動かすパワーが生まれるのです。そして、そのゴールを達成するまでホメオスタシス(恒常性維持機能)活動が働きます。つまり、達成するまで思考が動き続けるのです。
ゴールとは情報的な意思の世界である、情報的な意思のことを、コーチングの世界では「ゴール」という。この文章の意味を正確に理解するには様々な分野の正確な知識が必要になってきますが、コーチングを学ぶ人にとってはとても大切な拠り所になるのではないでしょうか。