エフィカシージャパン所属コーチの衣川信之です。
「コーチングの教科書」の基本連載です。未来思考で世界中の人の創造性と天才性を育み、利他的な人を増やす活動であるコーチングの学び方を、基礎からわかりやすく説明していきます。
2−9 ゴール実現の決め手となる抽象化された知識を得る方法
今回は、ゴールを実現していくときに決め手となる「抽象化された知識」を得る方法についてです。ゴールの実現と、この抽象化された知識の結びつきが重要です。ゴールを実現していくために大切なことは、ゴールの三原則で言うと、現状の外のゴールであること、want-toのゴールであること、それからバランスホイールとして表されますが複数のゴールを満遍なくバランスよく、ということでした。また、マインドの扱い方においては、ルー・タイスの人生の三原則、自分を偽らない(Authentic)、進歩的である(Progressive)、有効な行動を取る(Effective)の三つも大切です。また、コーチングの学びを続けているとわかってくることですが、時間は未来から流れるという未来思考と、抽象度、創造性なども重要な原則になってきます。
そして、なんと言っても抽象度です。コーチの活動のことをコーチングと言いますが、コーチングの活動の本質は、利他的な人を増やす活動であることです。利他的は英語でアンセルフィッシュ、利己的でないという意味ですから、自分の自由や幸せはもちろん含んでいいのですが、自分の利益だけではなくて他の人の利益、自由、幸せも考えていく利他的な状態になって出てくるエフィカシーや創造性というものがあります。
ゴールも趣味のゴールは自分のためですが、職業のゴールは相手や社会のためですし、組織や家庭、地域社会のゴールも関わる人の利益や幸せを考慮して理想が決まってくるものです。ですから、ゴールを設定する時に、現状の外に広がるような、抽象度の高い思考ができるようになることが大切であり、そのためには「抽象化された知識」の束が必要になってきます。
抽象化された知識とは、普段、あまり聞き慣れない言葉だと思います。逆に、この抽象化された知識の重要性を理解すると、日頃からこの抽象化された知識をいかに獲得し、応用していくかに目が行き、意識的にも、無意識的にも勝手にトレーニングするようになるので、全方位でパフォーマンスが桁違いにレベルアップしていくことでしょう。ビジネスも結果が出るようになり、あちこちで活躍し、重宝がられ、引っ張りだこの状態になってくるのではないでしょうか。抽象化された知識は、それぐらい大切なものです。
では、抽象化された知識とは何でしょうか。どのようなもので、どのように獲得できるのでしょうか。抽象化された知識について、苫米地博士の言葉を紹介します。
「バイリンガルは二重人格」という本の中で苫米地博士は、「抽象化された知識とは、いうなればマクロ化された知識のこと」だと述べています。苫米地博士は経済行動の例で、「たとえば、経済でいうとひとりの消費傾向はすぐわかることであり、100万人とか国民全体の消費傾向になると経済学になるのです。」というように抽象化された知識のことを説明しています。
確かに、物を買う自分の傾向性は自分で調べればよいことです。予算の中で、どんなものをどれくらい買い物をするかということですね。どんな予算でどんなものを買うかについては、一人一人かなりばらつきがありそうです。ですが、国民経済全体で、大きな傾向性があるだろうかと考えることもできます。マクロ経済学を学んだことがある人はすぐにピンとくるかもしれませんが、マクロ経済全体の国民の消費傾向ということであれば、ケインズ型の消費関数という説明があり、国民全体の所得の大きさに対して、消費がどれくらいの割合であるかは統計が取れるし、関数として表現できるのであれば、予測もできるし、モデルに組み込んで他にどのような影響が出るのかも分析して、マクロ経済政策の一助にすることができます。
どんな事象であっても、部分と全体は双方向に影響を与え合っているので、ミクロとマクロの両方の知識があるから、時間や空間を超えた推論である高い抽象思考ができるようになります。圧倒的に有利です。自分の消費行動の知識だけでは家計の管理で終わってしまいますが、企業単位であれば財務担当に、国であればマクロ経済政策や財務の担当にもなれます。経営者が経営理論を学ぶのは、経営理論が個々の開発や営業活動だけでなく、経営についてのマクロ化された知識を扱っているからです。
水の温度などもマクロ情報です。個々の水の分子の運動エネルギーの情報は捨象されて、お風呂の水全体で何度であるということがわかります。それに対して温度を上げるとか、温度を下げるとかの判断ができます。こうして考えてくると、大きな意思決定というのは、個々の構成要素への影響を考慮しながらではあっても、マクロ化された知識を前提に、マクロの影響を考慮して働きかけるものだということが見えてきます。
では、どうしたらマクロ化された知識、抽象化された知識を得ることができるでしょうか。苫米地博士は「バイリンガルは二重人格」という本の中で、
「こういった抽象化された知識を得るためには、大量の読書が必要になってきます。
先ほど第3章で、「英語人格をつくるためには、英語の古典などを読書しなければいけない」ということを述べましたが、これは抽象化された知識を手に入れるためでもあります。
知識を得る方法はいろいろありますが、文字情報が最も適切です。海外ドラマの『24-TWENTY FOUR-』をいくら観ても、所詮それは抽象化されていない知識です。
抽象化されたものは必ず文字言語化されていきます。別人格をつくるとき、少なくとも文字言語より高い抽象度のものを認識し、臨場感を高めていくためには、文字言語の抽象度の高さになるようにしなければいけないのです。
抽象化された知識を大量に得ることによって、自己イメージの限界が広がり、それが新しい人格を手に入れることにつながるのです。」
と述べています。