エフィカシージャパン所属コーチの衣川信之です。
「コーチングの教科書」の基本連載です。未来思考で世界中の人の創造性と天才性を育み、利他的な人を増やす活動であるコーチングの学び方を、基礎からわかりやすく説明していきます。
2−8 ゴール設定と抽象度の関係
ゴールを設定する時に、「抽象度」「高い抽象度」という概念が出てくるだけでなく、とても重要な概念になっていることが、ルー・タイスや苫米地博士、特に苫米地式のコーチングでは特徴になっていると思います。私自身、博士のコーチングの体系に出会う以前は、ゴールや目標ということは考えたことがあっても、抽象度という概念は持っていなかったし、ましてゴール設定と抽象度の結びつきなんて考えたことがありませんでした。
子どもの頃から本を読むのが大好きで、文学や歴史、哲学、政治経済などの様々な分野で、たくさんの人の人生の悩みや社会制度、人間が置かれた状況、その上でどう生きるべきなのかはずっと考えてきましたが、そうした人生の目的を探究し、社会の諸事象を考察することと、自分がこの世界でゴールを実現する、目標を達成する、成功することは、どこかで別のことになっていました。
ルー・タイスや苫米地博士のコーチングの体系と出会う以前は、ゴールや目標のことをこの世での成功、栄達、経済的成功という文脈で捉えていて、その経済的なサクセスのための願望実現と、教養や哲学という一人で思考を続け、あるいは職業人として何か社会に役立とうという思いが、自分の中では別のものとして捉えていたんだろうと思います。
そんな時に、苫米地博士がおっしゃる、抽象度という概念を聞いて、ハッとしました。抽象度を、情報量の大小で説明すれば、何か人間が認識する宇宙には、上位概念と下位概念から構成される情報量の大小で概念体系を記述できるような系から構成されていると理解できます。個別の犬の種類であるプードルと、犬一般を指す犬では、犬というカテゴリーの方が上位概念で、プードルの方が犬の下位概念になります。こうしたことを専門的に扱う学問の内容とそれがマインドの扱い方においてどのような関係があるのか、意義があるのかについては、苫米地博士の書籍を参照されてください。
ロースクールでトレーニングを受けるのも、一般的な法規範、ルール、準則を打ち立てていく抽象化の方向と、それを個別具体的な事例の個別性、特殊性をどのように捉えるのかという具体性の方向と、行ったりきたりします。ビジネスでも、経営理論や経営の原理原則という一般化、抽象化の方向と、それを個別のケースでどのように戦術を立てていくのか、具体・抽象の繰り返しです。文学にしても、個別の主人公、ストーリーでありながら、そこには何か普遍的なもの、多くの時代、文化を超えて普遍的なテーマが現れてくるように思います。
情報量の大小という対象の世界を概念の上下関係から捉えていく壮大な認識の話も、言葉や認識から構成されている対象の世界、そして選び取り、考え、生きていく、人生が展開していく世界の成り立ちと深い関係性がありそうですが、抽象度を高める思考を実践的に考えると、相手の立場を考える、その相手の立場がどれだけ多様で広がりを持つかという、視点の高さや配慮の範囲、そして様々な立場の利害や考え方の違いに対する有効で具体的な提案力、解決力、サポート力のような、人格の幅広さのようなものにも結びついてきます。自由というのは、定義上、相手の自由も含んだ概念だと思います。
幸せもそうですよね。自分だけが幸せで、他者がそうでない世界というのは、人間の心にとっては難しいのではないかと思います。近代は、どうしても経済的な自立、自己実現、そのためにずっと働き続けることが奨励される世界になってきていると思いますが、「我思うゆえに我あり」というデカルト的な個人主義的立場でよくなる物事や世界の側面だけではなく、サティシュ・クマールという方の「君あり、故に我あり」という本のタイトルにも現れているように、人間にとって幸せが相互依存的であることの認識は重要であるように思います。どういうわけか、人の心は、相手が幸せであると、相手が自由であると、喜べる、幸せを感じるようになっているのではないでしょうか。少し枠を広げて考えれば、経済だって、自由だって、相互依存的です。
苫米地博士は、たくさんの書籍で、ゴールを設定することの意義を繰り返し述べられています。「201冊目で私が一番伝えたかったこと」という本の中では、「ゴールを設定し、それを達成する過程で、今まで見えなかったさまざまなものが見えてきて、結果として物事をより高い位置から俯瞰して見られる。すなわち、他のものよりも一つ上の抽象度での判断ができるようになるのです。
ゴールを設定し、結果として抽象度が上がること。すべての人がこのことを実行すれば世界中から戦争やテロ、飢餓がなくなることでしょう。もちろん、個人レベルでも、今まで経験したことのなかったような生き生きとした人生を送ることができるでしょう。
しかし、そのような理想を達成するには、それを妨げるものが世界にはあまりにも溢れています。」と述べられています。
「苫米地式コーチング」という本の中では、ルー・タイスがどのような人物か、苫米地博士がどのようにルー・タイスのコーチングのプログラムの発展に全面的に関わることになったのかに言及されながら、コーチングの体系が「本来、自分が達成するゴールにとって重要なことだけを見つめ、資本主義の系から一つ飛び出したところにある『無限の力を持つ自分』を見出そう。そして、最高の自分を見つけるためには、常に自分のあるべき姿を強くイメージしておかなければならない」という視点に立って作られています。」と解説されています。